階級社会 現代日本の格差を問う
- 作者: 橋本健二
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/09/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ここの何年かでよく話題にされる「格差社会」についてキチンと整理されたよい本。
社会を変えるのは、私も含まれる「新中間階級」にかかっているのだそうだ。いったい何ができるだろうか。一つの鍵は労働時間の短縮だそうだが。
階級とは、経済的な性格をもった社会的資源によって区分された社会階層のことであり、本書では、現代社会の階級構造として、
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- 資本家階級…従業員規模5人以上の経営者、役員、自営業者
- 新中間階級…専門・管理・事務職に従事する被雇用者(女性事務職は除く)
- 旧中間階級…従業員規模5人未満の経営者、役員、自営業者
- 労働者階級…専門・管理・事務職以外の被雇用者
の4つに分ける。
それぞれの階級のプロファイルとして、まず、資本家階級は
次に、新中間階級は
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- 中以上意識、家計満足度は資本家階級に次ぐ
- 高学歴、コンピューター・リテラシー高い、英語使う人多い
- 貧富解消政策に理解を示す
労働者階級は
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- 個人収入250万円、世帯収入600万円
- 豊かさに関する意識は最低
- コンピューター・リテラシー低い、英語使う人少ない
- 政治意識低い
旧中間階級は
さらに、アンダークラス化する若者たちの問題、女性からみた階級の問題についても述べた上で、
格差社会問題には、
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- 所得などの格差を問題にするもの(結果の不平等)
- 社会移動の機会を問題にするもの(機会の不平等)
があるとする。
機会の不平等を問題にすることが多いが、本書では、機会の不平等が拡大している明確な根拠は無いとしていて、結論することの困難さを強調している。さらに、議論を混乱させる要因として、ゆとりか、詰め込みかといった教育論とからめることについて、本書では、教育に格差を縮小させる力はないと言っている。
この報告書(執筆者の名前をとってコールマン・レポートと呼ばれる)は、学校の広さや設備、教員の質(経験年数やボキャブラリーテストの得点など)が生徒の学力に与える影響は非常に小さく、生徒の学力は主に、人種や社会階層など家庭の社会経済的背景によって決定されていることを明らかにした。つまり、学力の格差は学校教育とは独立に決定されているのであり、学校教育に格差を縮小させる力はないのである。
では、なぜ格差を容認できないのか?
まず、本書では、インセンティブのための大きな格差は必要ないといっている。
そもそも、人々を動機づけるために大きな格差が必要だとはいえない。
(中略)
おそらく人々を動機づけるためには、他者と比較してより優位に立てるということが重要なのであり、その差が絶対的に大きいことは、さほど重要ではない。人々が感じる幸福や満足は、所得水準そのものよりも、他者との比較で決まる部分が大きいからである。
そして、
すべての人々は、自分の活動の成果が認められること、役に立っていると感じること、そこから満足を得ることを必要としている。
(中略)
だからこそ自尊は、公正としての正義が配分すべき「最も重要な基本財」なのである
とし、この視点に立つなら格差が大きくなっても問題ないと考えることはできないという。
では、いかにして格差をなくすかについては、
ここで新中間階級が、格差拡大の現実とその弊害を最もよく理解する中間階級として、上位に位置する階級との格差、下位に位置する階級との格差をともに縮小させるような政策を支持できるかどうかに、社会のゆくえがかかっている。労働者階級からのいっそうの搾取ではなく、相対的な高所得で満足し、権限や技能をともなうやりがいのある仕事から得られる満足と自尊を報酬と考え、自分たちの当面の物質的利益よりも社会的な公正を優先させる新中間階級が、社会を変えるのである
ということだ。