持続可能な福祉社会

持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想 (ちくま新書)

持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想 (ちくま新書)

経済的には、限りない成長はもはや望めないので、定常型社会を目指すべきである。また、社会的には、都市の中のムラ社会としての「カイシャ」「(核)家族」が機能しなくなり、個人が孤立している。だから、「持続可能な福祉社会」を実現しよう、という本。

持続可能な福祉社会として、著者はまず、人生前半の社会保障をあげる。中でも重要な意味を持つのが教育である。

教育機関への公的財政支出の国際比較では、デンマークスウェーデンなどが上位を占める一方、日本はOECD加盟国(いわゆる先進国)三十カ国の中でトルコを除き最低となっている

著者の考えでは、人生を「子ども」「大人」「老人」と分けたとき、子ども期、老人期ともに長くなっており、広い意味での子ども期である三十歳前後までをもっと支えるべきとする。

そのための財源としては、第一に高所得高齢者向け年金の削減である。

歴史的に見ると、年金制度には基本的に二つの異なるタイプのものがある。一つは「社会保険タイプ」と呼べるものである、サラリーマンを中心に、基本的に”払った保険料の見返りとして年金を受ける”という発想に立つもので、保険料を財源とする。
もう一つは、「基礎年金タイプ」と呼べるもので、”すべての高齢者に一定以上の所得を保障する”という考えを基本とし、税金を財源として、一律の額の年金給付を行うものである。

著者は、年金が本来果たすべきは所得再分配機能であり、”すべての高齢者に一定以上の生活を保障する”という役割を強化するとともにそれを超える部分は民営化を図っていくのが妥当と考える。

財源の第二は、相続税の強化である。

そもそも相続税という制度をどう考えるかは、およそ社会というものをどうとらえるかの根幹に関わるものであり、筆者の理解では、「社会というものの”基本単位”を『個人』とみるか、それとも『家族(あるいか家系)』とみるか」という点がその核心にある

個人のチャンスの平等を保障するためには、相続税の強化が必要である。

さらに、この本では、定常型社会における環境・福祉・経済政策といった大きな話へと展開していく。端的に言えば、著者は、「定常(環境)志向&(相対的に)大きな政府」であるヨーロッパ型社会を志向する。